もうひとつの「現在」への帰路

市井の人々が記録した昭和の世田谷

昭和30-50年代にかけて、
映像史上はじめてひろく普及した動画メディア、8ミリフィルム。
デジタルアーカイブプロジェクト「穴アーカイブ」は、
当時の生活文化が刻まれた “市井の人々の記録” として、
それらの収集・公開・保存・活用を2015年から進めてきました。

このウェブサイト(世田谷クロニクル1936-83)では、
およそ30名の方々からご提供いただいた84巻の映像をご覧いただけます。
戦時中の人々、復興を遂げた街並み、高度経済成長期の生活。
世田谷を定点とした15時間の無音のホームムービーは、
観る者をフレームの外にひろがる風景へと連れ出してくれます。

現在から過去を経由して、ふたたび現在に還ってくる。
すると、見えていなかったものに気づくことがあります。
見慣れたいつもの場所が、どこか違って見えてくる。
そんな “もうひとつの現在” につながる抜け穴を、
世田谷の8ミリフィルムに探してください。

音のない世界から、聞こえてくる言葉があります。
音のない世界に、添える言葉があります。
小さな火を囲むように、それぞれの記憶や想像を持ち寄って、
新しい時代が向かうその先を照らし出しましょう。
さようなら、平成。 こんにちは、昭和。

2019年3月10日
穴アーカイブ


Q&A

Q.1「穴アーカイブ」は、どんな取り組みですか?

昭和の世田谷を映した8ミリフィルムをデジタルアーカイブする活動です。

私たちは、デジタルビデオカメラやスマートフォンといった機具、インスタグラムなどのソーシャルネットワークサービスを使って、日々の自分の暮らしを記録に残しています。そんなパーソナル・メディアの元祖とも言うべき存在が、昭和30-50年代に市販された8ミリフィルムです。

穴アーカイブは、当時の最先端だった、しかし、今では古くなってしまった映像メディアに光をあてることで、現代の暮らしのあり方を照らし返すことができるのではないかと考えています。

Q.2「穴アーカイブ」の「穴」とは何ですか?

パーフォレーション、記録の不在、抜け穴など、複数の意味があります。

あな【穴】
- 反対側まで突き抜けている空間。「針の―」
- 必要な物や人が抜けて空白になった所。「人員に―があく」
- 番狂わせの勝負。「―をねらう」
(出典:デジタル大辞泉[一部抜粋])

穴アーカイブは、プロジェクトが持っているいくつかの狙いを、「穴」になぞらえて表現しています。

例えば、穴アーカイブは、記録を残すという営みを、記録が残らないこと、残せないこと、すなわち、記録の不在(穴)から捉え直そうとしています。そんな考え方を、フィルムに空いた穴(パーフォレーション)という実際の構造に反映させています。

なぜ、私たちは記録を残そうとするのか。記録の欠損は、記憶で埋められるのか。ないものを集めることはできるか。ある意味で矛盾した名前の反アーカイブ的アーカイブ(an-archive)の試みは、記録の不在をたよりに、アーカイブの在り方を問いかけます。

また、穴アーカイブは、現代の暮らしのあり方を見つめ直す場所でありたいと考えています。そんな思いを「抜け穴」という言葉に託しています。私たちの現在地が、過去を経由することによって再発見できる。そんな機会の創出をめざしています。

さらに、穴アーカイブは、他者の記録や記憶をとおして自己の視点やまなざしが獲得されることをとても重要だと考えています。28名の撮影者が撮影した映像に、あなたが知っている風景を重ねてみる。すると、時間も空間も隔てた過去と、あなたの生きている現在とが地続きのものとして感じられるようになるかもしれません。

ファインダーという覗き穴からかつて誰かが眺めた風景を、現在の世田谷の風景や、記録に残っていない記憶の風景、あるいは、世田谷から遠く離れたどこかの風景に重ねてみてください。

・穴アーカイブ
http://www.setagaya-ldc.net/program/444/

Q.3「穴アーカイブ」は、どんなプロセスで進んでいますか?

フィルムの収集・公開・保存・活用といった流れで進んでいます。

2015年から2018年までの4年間、世田谷区内在住の方を中心に、区報やチラシで8ミリフィルムの募集を呼びかけました。家の押入れからご提供いただいたフィルムは約200本。遺品として保管されていたフィルムも少なくありません。提供者の自宅などでのフィルム試写会を経て、世田谷にまつわる、かつての生活を伝えるフィルムを時間や予算が許す範囲でデジタル化していきました。ご協力いただいた提供者はおよそ30名になります。

こうしてデジタル化した映像は、提供者の方を招いた「8ミリフィルム鑑賞会」など、生活工房をはじめとした場所で定期的に公開しています。また、映像の活用という観点から、デジタル化した映像をあらためてじっくり観ながら、それぞれの視点で当時の街並みや暮らしの風景について語り合う「せたがやアカカブの会」という小さな集いの場も定期的に実施しています。映像にまつわるさまざまな記憶や想像を持ち寄って、一つのスクリーンを囲みながら対話する。そんな、“顔の見えるアーカイブづくり”に注力しています。

・せたがやアカカブの会
http://www.setagaya-ldc.net/program/444/

・かぶうずら、やまいもうなぎ
http://www.setagaya-ldc.net/program/444/

Q.4「穴アーカイブ」には、どんな人たちが関わっていますか?

世田谷区民の皆さん、NPO、近隣の大学などと連携しながら進めています。

穴アーカイブは、公益財団法人せたがや文化財団 生活工房が、さまざまな個人や団体と協働しながら取り組んでいるプロジェクトです。例えば、“文房具としての映像”という考え方を軸に、映像を用いたさまざまな場づくりを展開するremo[NPO法人記録と表現とメディアのための組織]が企画制作を担っています。remoの事業の一つである「AHA!」というアーカイブプロジェクトのノウハウや知見をもとに、穴アーカイブは進められています。

下記がクレジット一覧です。

主催:公益財団法人せたがや文化財団 生活工房
企画制作:remo[NPO法人記録と表現とメディアのための組織]
後援:世田谷区、世田谷区教育委員会
協働:日本大学文理学部社会学科 後藤範章研究室(2015)
協力:NPO法人映画保存協会(2015)、コガタ社(2015)、日本大学文理学部社会学科 後藤範章研究室(2016)、フィルム提供者の皆さま
宣伝美術:有佐祐樹
テレシネ:株式会社吉岡映像(一部を除く)

コアメンバー(AHA!):成田海波、プルサコワありな[藍那]、松本篤(remo)、八木寛之

Q.5ウェブサイトは、どんな目的で制作したのですか?

“顔の見えるアーカイブづくり”をさらに発展させることをめざしました。

「世田谷クロニクル1936-83」(本ウェブサイト)制作の目的は、より多くの方にご覧いただき、映像を媒介としたコミュニケーションの面白さや大切さを体感してもらうことです。

これまで穴アーカイブは、公開鑑賞会や「せたがやアカカブの会」といった対面的コミュニケーションを重視してきました。私たちは、この“顔の見えるアーカイブづくり”をさらに促進させるツールとして、本ウェブサイトを制作しました。

かつて世田谷に暮らしていた人、最近世田谷に暮らしはじめた人、職場が世田谷区内にある人、あった人。郷土学習の現場に携わる人、地域福祉の現場に携わる人。さまざまな人々が、さまざまな場所で、さまざまな規模で、映像を文房具のように扱いながら場を開いていく。

本ウェブサイトは、映像をともに観ること、記憶や想像を分かち合うことの愉しみを提供したいと考えています。

下記がクレジット一覧です。

ウェブサイト制作
企画:穴アーカイブ
ディレクション:松本篤(remo /AHA!)
デザイン/制作:田中慶二(Calamari Inc.)
翻訳:プルサコワありな[藍那](AHA!)
進行管理:佐藤史治(生活工房)

Q.6ウェブサイトの映像は、どんな基準で公開しているのですか?

提供者から使用の承諾を得られたものは、すべて公開しています。

生活工房に持ち込まれた約200巻のフィルムから選別・デジタル化したフィルム。それからさらにインターネット上で公開してもよいと提供者の同意を得られたのが84巻。昭和11(1936)年から昭和58(1983)年の間に撮影された、それらの映像をすべて公開しています。

なお、公開している映像は、必ずしも世田谷区内で撮影されたものではありませんが、日光や江ノ島といった近郊の観光名所も当時の生活文化を知るためには貴重な資料だと考え、提供者からの承諾を得た上でできるだけ編集や削除を施さずに公開しています。

Q.7映像に付された情報は、どのように作成されたのですか?

映像に付された情報は、以下の順で記載しています。

・通し番号
・タイトル
・撮影年代
・撮影場所
・短文紹介
・音声
・色
・撮影時間

紹介文は、フィルム試写会の際に提供者から聞き取った内容やフィルムに記載されたメモをもとに、穴アーカイブが作成しました。なお、提供者の自宅で撮影されているものについては、場所の特定を避けるため町名までしか記載していません。また、個人情報保護を目的に、氏名表示など一部編集を施している映像もあります。

Q.8ウェブサイトで公開している映像のリストはありますか?

下記のリンクから、映像リストをダウンロードしてご覧いただけます。
・世田谷クロニクル1936-83 公開映像リスト
http://www.setagaya-ldc.net/program/444/

また、『ポストムービー』という目録セットもあります(有料/販売休止中)。映像を囲むワークショップ「せたがやアカカブの会」では、参加者の感想や映像にまつわる記憶を綴るためのツールとして活用しています。

POST-MOVIE
世田谷クロニクル1936-83

ブックレット+ポストカード84葉

企画:穴アーカイブ
編集・執筆:松本篤(remo /AHA!)
デザイン:尾仲俊介(Calamari Inc.)
進行管理:佐藤史治(生活工房)
発行:remo[NPO法人記録と表現とメディアのための組織]
初版:2019年3月10日(500部)

Q.9ウェブサイトを活用した事例はありますか?

大学の授業内での活用や、美術館で開催される展覧会内での利用があります。そのほかにも、オンラインワークショップ・プログラム「サンデー・インタビュアーズ」、目の見える人と見えない人が一緒に鑑賞する「エトセトラの時間」での利用や、展覧会「世田谷クロニクル」内での活用があります。

・サンデー・インタビュアーズ
https://aha.ne.jp/si/

・エトセトラの時間
https://www.setagaya-ldc.net/program/548/

・展覧会「世田谷クロニクル」
https://setagaya-ldc.net/pickup/vol26/

Q.10ウェブサイトを活用したイベントを行うことは可能ですか?

詳細は下記の問い合わせ先までご連絡ください。

穴アーカイブは、映像の鑑賞をとおした学びの機会を提供したいと考えています。そのため、より多くの方がウェブサイトを活用することを推奨します。

例えば、非商用利用を前提とした私的使用の範囲であれば、連絡の必要はありません。私的使用の範囲を超える鑑賞会等の開催や商用利用を目的としたものについては、生活工房までメール(info@setagaya-ldc.net)にてお問い合わせください。企画内容を検討のうえ、判断させていただきます。

Q.11ウェブサイトの映像を素材として使用することは可能ですか?

詳細は下記の問い合わせ先までご連絡ください。

有償無償にかかわらず、映像素材としての使用については、生活工房までメール(info@setagaya-ldc.net)にてお問い合わせください。企画内容を検討のうえ、判断させていただきます。

なお、許諾を得ない形での使用やダウンロードは法律で固く禁じられています。発見した場合は、著作権保護の観点から厳然な処置を講じます。また、そのような事案にお気づきの方は、お手数ですが生活工房までメール(info@setagaya-ldc.net)にてご連絡ください。

Q.12今後は、どんな展開を予定していますか?

本ウェブサイトの映像を活用した企画を実施していきます。

最新情報は、「世田谷クロニクル」公式アカウントやメールニュースが配信される「せたがやアカカブの会」でご確認いただけます(会費無料)。

せたがやアカカブの会への登録方法

Q.13その他の問い合わせは、どこにすればよいですか?

生活工房までメール(info@setagaya-ldc.net)にてお問い合わせください。